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御祈願は雷神社へ

〒289-2616 千葉県旭市見広1371番地

おかめ井戸HEADLINE

 屋敷が小高い丘の上にあるので、水は坂を下りて山の根方より湧き出す清水をためた井戸により汲まねばならなく、水汲みは女達の仕事でありました。 おかめさんは、いつものようにこの朝も二度目の水汲みに下りて行きました。山の根方は暖かく、北側に山を背負い、南はずっと田圃がひらけて、朝早くから陽あたりがよく、春も近くなって田の氷も解けるのも早く、音を立てて割れ落ちては解けはじめていました。ほんとに暖かく靜かであるので、おかめさんは手桶に水を汲んでおいて、見廣野や倉橋野の山々をながめていました。  その時、田圃の向こうの見廣村の方から一人の男がどんどん駈けてきた。誰かに追われている様子でありました。おかめさんを見た男は、「今あとから追手がくるが、俺がここを通ったと決していうなよ、もし通ったと知らしたらお前を殺してやる」といって坂の上の方逃げて行きました。 間もなく三、四人の追手が来て「此所を男が通らなかったか」と聞かれたが、男の言ったことが恐ろしく声が出ませんでした。黙ったまま顎で坂の上の方に知らせました。追手の人達は急いで坂をかけ上がって行きました。あまりの恐ろしさにしばらく呆然としていましたが、水を早く汲んで行かなければならぬと思い手桶を持とうとしたら、何処に隠れていたか先の男が出てきて、「よくも、まあ知らしたな」と言うが早いか、刀を抜いて切殺し、田の中に蹴りおとしてしまいました。男は、追手の上がって行った方とは反対の右の道を東の方に逃げて行きました。おかめさんが殺されてから、岩井村の人々は今でもこの井戸をおかめ井戸と呼んでいます。これは五百年余りも昔の出来事であったということです。