昔、足洗で、それは或年のこと、地引網を引いても漁がなく、幾日も不漁の日が続いたことがありました。網主も困ったが、それよりも浜で働く人々の困り方は、ひととおりではありませんでした。幾日も村人達は海を眺めて、海は凪であるのに、どうして漁がないのかとため息をつくのでありました。
そのうち誰かが、「只こうしていても仕方がない。占って貰ってみよう」という者があって、それが良いとなった。折りよく村に祈祷者が廻ってきましたので、それに頼んで祈祷をして貰ったら、御託宣に
「この不漁続きは、岩井村の産土の神にこっそり来て頂いてこの神に祈祷するなれば、必ず大漁に変ること疑いなし」 と申されました。 早速夜になるのを待って、岩井に行き、産土様より大黒様の御神体を盗んで来て祈祷した処、それから大漁が幾日も続いたということです。
御神体はわけを語って、お礼と共に岩井村に返されましたが、その後も不漁とか旱だとか困ったことがあると、盗ませてくれと、御神像を借りられたそうであります。
それがいつの頃からか、個人でも盗む人が出てきて、仕舞には岩井の産土様の御神像は、盗まれぱなしで返らなかったということです。