本文へスキップ

御祈願は雷神社へ

〒289-2616 千葉県旭市見広1371番地

口を動かした石地蔵HEADLINE

 昔、倉橋の庄ヶ塚附近は山続きで人里に離れており、一人旅などには淋しい処でありました。それでも利根川岸に通ずる街道なので、用事がある人々は此の道を通らなければなりませんでした。 或時、それは秋も深まり日脚もずっと短くなって、暮れるのも早く、一人の旅人は、陽のあるうちに野尻の宿まで着かねばと足を早めて行くのでありました。時折枯草を渡る風音と、ねぐらに急ぐ鳥が鳴いて行くくらいで、静かな夕方でした。 さきほどから塚のかげにかくれていた悪者は、旅人をやりすごしておき、後から近づき、肩口めがけて切りつけました。旅人は虚空をつかんで倒れ、一声うめいたのみで死んでしまいました。悪者は落ち着き払って旅人の胴巻きを取り出し、懐に押し込んで、刀の血を旅人の着物でぬぐいとり、鞘におさめた。 さて何をするかと思うと、べっとりと血のついた右手を石地蔵の口もとになすりつけて、悪者は 「地蔵様ァお前見ていたって誰にも云うでないぞ」 と言ったら、口紅を付けたような地蔵様は、もぐもぐと口を動かして 「俺は言わねど、われ言うな」  男はギョッとして地蔵様を見たら、唇を動かしていた。 「わー、助けてー」。男は一目散にかけ出して行きました。 真青になって家に逃げ戻ったが、真紅な唇を動かしていた地蔵様が目についていて、夜も眠られず、昼も忘れることが出来ず、とうとう気が狂ってしまい、「庄ヶ塚で人殺しをしたのは俺だ、俺は人殺しをした」と叫び歩いたということです。         《注》この地蔵は、旭市指定文化財。