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御祈願は雷神社へ

〒289-2616 千葉県旭市見広1371番地

狐に化かされたお師匠さんHEADLINE

 むかし、むかし、横根村にヤワラのお師匠さんと云う人がありました。 或る朝のこと清滝村に用事があって忍坂を通りました。小高い松山の南に面した路の近くに、仔をつれた親狐が人のくるのも知らずによく眠っていました。お師匠さんは狐のやつを一つ驚かしてやろうとして、音のしないように靜かに近寄り、急に大きな声を出して驚かしました。狐はたまげて、仔をつれて山の中に入り一度お師匠さんの方をふり返ったがそのまま逃げて行きました。お師匠さんは蛇園村にも知った人が多くありました。行き逢った人々は「何処に行きますか」と聞くから、「一寸清滝村迄用事があってね」と急ぐのでありました。  その翌朝のことでありました。蛇園村の人達が、朝売りといって、浜の村に商いに出かけて、忍坂までくると「おお深い、おお深い」という声が、草むらの中より聞こえてくるので、声のする方に行って見ると、それは昨日清滝へ用たしに行くのだと蛇園を通った、ヤワラのお師匠さんでありました。小さな風呂敷包みを持ち着物の裾をまくり上げて、草の中をまるで田の中か池の中を歩くようなかっこうで、「おお深い、おお深い」と言いながら歩いていました。腰から下は露でびしょ濡れでありました。村人が「お師匠さんどうしたかね」と声をかけたら、「どうもこうもない。池に落ちて深くてなかなか上がれないで困っているとこだ。助けてくれ」と言うので、「お師匠さん何のことを言うだ、そこは草の中だよ」というとようやく気がつきました。  お師匠さんの話によれば昨日遅くなって、ここまで来たら薄暗くなって来たのでわき目もふらず急いで来たら、池に落ちてしまい、一晩中上がることが出来ず、池の中を歩いていたような気がした。皆んが来たので、ようやく助かったと言いました。  お師匠さんは、昨日おどろかした狐に仇をとられたのであったということです。