むかし、むかし、岩井村に菊次さんと甚介さんという大変仲の良い若者がありました。 その頃の若衆達は、万福寺へよく遊びに行きました。又他処に行くにも万福寺に集まり、夜遅くなると寺に泊まったりしていました。 麦蒔きも終わった頃、夜が長い時期なので、若衆達は寺に集まり始めましたが、ある夜のことでありました。菊次さんは一人で家を出て、寺に行ったら誰か来ている頃だと思いながら急ぎました。寺は途より余程入った処で、その晩は風一つない靜かな晩であったが、まだ誰も来てなかったので、寺から出て道に出ようとした時でありました。ごうごうと中標坂の方からものすごい風音がして来たのでふり返ってみると、風音と共に一かたまりの雲が木の上すれすれにこちらに近づいて来るかと見ると、雲の上に地蔵様がありありと乗っているのが見えて、それが村まで来ると、庫裡の上で消えてしまいました。背中から水をかけられたように寒けがしてきた菊次さんは、不思議なことがあればあるものだと急いで家に戻ると、間もなく甚介さんの家から、甚介が今急にぽっくり死んでしまったからすぐ来てくれと使いが来たというそうです。