昔、岩井村のある家に、おなかという七つになる女の子がありました。 夏の夕方のこと、大勢近所の子供達と遊んでいたが暗くなって来たので、みんなそれぞれ家に戻りましたが、どうしたことか、おなかは急に居なくなってしまいました。
いつまでもおなかが家に戻らないんで、家内の者達は心配して隣近所の人達をたのんで探してもどうしても見つからなく、これはきっと隠し婆につれて行かれたに相違ない、ということになりました。
その頃隠し婆というのがあって、人を連れて行くという話がありました。返せ返せを出すことになりました。返せ返せは自殺者など見つからない時や、人がいなくなった時など昼夜なく鉦太鼓を叩きながら、いそうな山の中などを、返せや返せやと呼びながら歩くので、返せ返せが出たとなると、女や子供達は気味悪がっていました。
とうとうその夜は見つからなくて、そして朝になり昼近くなっても見つかりませんでした。そのうち誰かが薪をとりに木小屋に入って行ったら、奥の方でかさかさ音がするので萱の上に上がってみると、そこに小さく蹲っておなかは隠れていました。
家につれて来て、どうしてみんなが呼んで探しているのに隠れていたんだと尋ねたら、見たことのない老婆が来て「声を出すでない、家の者が呼んでもけっして返事をするでない、黙ってじっとしていなければだめだ」というので隠れていたが、おっかなかったと語りました。