昔、岩井村に小さい女の子のある三人暮しの家がありました。夫はなまけ者で、毎日酒を呑んだり博奕を打ったりして仕事をしなかったので、いつも苦しい暮らしでありました。或る日、妻は子供をつれていつもながら実家へ米などを貰いに行きましたが、日頃の心労が出たか病気になってしまいました。 それでも、十日ばかり過ぎたら少しはよくなり、起きられるようになった。夫にだまって来たので気になっていたので、無理して戻ることにしました。家に戻って、門口を入ろうとして家の中を見ると、よその人達がいて語っていて、それに子供達までいて楽しそうな話声でした。不審に思い佇んで様子を見ていると、ますます様子がおかしいので隣に行って聞いたら、夫が博奕に負けて家屋敷を売ってしまったということでした。今買った人が入っているとのこと。 そして隣の者の言うには、お前らも十日あまり見えなかったので、おまえらが売ったのを知って実家へ戻っているかと思っていたとのことでありました。 母子は家に入ることもできず、門の前を泣き泣き行ったり戻ったりしていたが、やがてそれきり何処かへ行ってしまい実家にも戻らず、その後見かけた者もいなかったということでありました。 それから幾年か過ぎて、其の家に入った者達が如何したことか、家中ちりじりに別れて滅びてしまったという。それ以降も、幾度かこの屋敷に家を建てる者があったが、家中別れわかれになって潰れると伝えられています。