むかし、むかし、岩井の村はずれに、通右ヱ門と云う人が独り暮らしをしていました。 子供が好きで可愛がるので、子供達も毎日のように遊びに来ました。
色々な面白い話をきかせたり、また笛が上手で、笛を吹いて聞かせたりして子供達を喜ばせていたが、そのうち歳をとって歯がぬけて、笛が吹けなくなってしまいました。それでも子供達は遊びに来て、
通右ヱ門 通右ヱ門 笛吹けや 前歯がかけて 笛吹けぬ
と囃したてても、にこにこして話を聞かせ、集まって来いと集めては話を聞かせるのでありました。 通右ヱ門さんはまた、雑炊が好きで何時も雑炊を炊いて食っていました。
こんな話がありました。通右ヱ門さんの町内で、猫達の寄合いがありました。六匹も七匹も集まってきたが、通右ヱ門の猫だけが遅くて、皆待ち遠しがっていました。しばらくしてから、通右ヱ門の猫はやっとやってきました。他の猫達が、「通右ヱ門どん、ずいぶん遅かったね、どうしていたんだ」と言ったら、「俺の家では今夜も雑炊が熱くて、食うのにひまがかかった、遅くなってすまなかった」、と近所の猫達にあやまったということです。